2018年7月の囲碁フォーカスで特集された。
謙虚で感動的なスピーチ
岐阜県岐阜市出身。生まれつき骨が弱い難病のために、自力では歩くことができない。車いすでの生活を余儀なくされている。
日本棋院関西総本部女流棋士採用試験に11戦全勝で合格した。
2018年3月に行われた日本棋院の平成29年度合同表彰式では新入段棋士への免状授与が行われた。
16歳の加藤は壇上での挨拶として「今まで家族や師匠などたくさんの人に支えられてここまでくることができた。自分はできないことも多いが、囲碁に出会えて本当によかったと思っている」と述べた。
多くの苦難を周りの方々と乗り越えてきたことが伺える非常に印象的なスピーチだった。
囲碁との出会い
幼少期、外で友達と遊べないことを心配した父親は、室内で一緒に遊べるものはないかとボードゲームを購入したという。
そしてその中に囲碁もあった。親子で囲碁のルールを覚えたぐらいの頃から、加藤がだんだん勝つようになり親に勝つのは楽しくうれしかった。
小学二年生の頃に、たまたま囲碁の入門教室のチラシが入り、地元の公民館の囲碁教室に通い始める。
その教室で熱心に教えていた伊藤貴夫が加藤に囲碁を教えてくれた。友達と遊ぶかわりにおじいちゃんたちと囲碁を打って遊んでもらえて楽しかった。
伊藤は加藤を自分の孫のようにかわいがったそうで、加藤の父親はその人がいなかったら娘は囲碁はやっていなかったと断言する。
囲碁で前向きに
車いすに乗っているので小学校の運動会など学校行事に参加できず辛い思いをしたこともあった。そして病気でできないことも多い。
しかし囲碁を始めてから足の病気のことで悩まなくなった。そう話す加藤の表情は清々しい。
2011年には第32回少年少女囲碁大会に岐阜県代表として参加する。小学四年生だった。
大会に行くまでは結構勝てるかなと思っていて、自信をもっていったが、結果は全敗だった。
そのときの正直な感想として加藤は、悔しいというよりびっくりした。自分と同じ年でも強い子がたくさんいた、と語っている。
全国レベルを肌で感じ、自分の未熟さに気づかされた加藤。大いに刺激を受けて地元に帰ってきてからは猛勉強に励んだという。
そしてそれから間もなく関西の囲碁イベントに参加し優勝、初めてのタイトルを獲得した。トロフィーなどを親に見せる加藤は笑顔に溢れている。
全国優勝
小学五年生の頃にプロ棋士を意識し始めて、父親には全国ベスト8に入ったら地元の中部所属羽根直樹に院生になる相談をしてほしいと頼んだ。
そして迎えた2013年の第34回少年少女囲碁大会。小学六年生の加藤は決勝まで勝ち上がり、兵庫代表の小学五年生の笠原と対戦。結果は白番の加藤が262手完で13目半勝ちだった。
全国優勝した帰りの車の中、加藤はすでに次を見据えていた。父親に「院生の件を羽根直樹先生に言ってね」と伝える。
これに父親は驚いたという。その約束を決して忘れていたわけではないが子供の快挙に両親は舞い上がり喜んでいた。
優勝から間もないうちに院生の話をされて少なからずの戸惑いが親にはあったが、しかし同時に娘はそんなに院生になりたかった、プロになりたかったんだと再認識した。
ちなみに、加藤は全国優勝した頃に囲碁フォーカスで特集されて、好きな棋士は羽根直樹だと答えて羽根と一緒に写真をとってもらっている。
辛い院生時代
加藤が院生のあいだ、院生師範として指導にあたった柳澤理志(さとし)五段は加藤が「命がけでプロを目指している」と感じたという。
これは多くの院生に当てはまるだろうが、加藤も毎回がラストチャンスのような気持ちでプロ試験に臨んでいた。柳澤は加藤は間違いなくいつか棋士になるだろうと思っていたようだ。
しかしプロ試験に合格するのはそう簡単ではない。相手の前では決して泣かない加藤も母親の前ではまるでこの世の終わりかのように号泣することがあった。
それを見る母親は、もう囲碁はやめてほしい。やめたほうがいいんじゃないか。こんな辛い思いをこの年でする必要はあるのか、と毎回思ったという。
愛ある両親の存在
弱音を吐ける、聞いてくれる母親が常にそばにいた加藤は幸せだったに違いない。勝てないことで何度も挫折を味わうがそれでも周りの人の支えで前を向くことができた。
涙を拭いていつものように院生研修に向かう。そして、研修を終えて家に帰ってくると加藤は、また頑張りたい。プロになることをあきらめない、という気持ちを必ず両親に伝えたという。
どうしてそこまで囲碁のプロ棋士になろうとするのか。
普段の生活でできないことが多いので「囲碁しかない」という思いはずっとあった、と加藤は言う。
家族や師匠、応援してくれた方々のためにも頑張りたい。そして遂にプロ試験8回目で合格を勝ち取る。11戦全勝だった。合格したその日、家に帰る地下鉄で加藤は親に「今までありがとう」と伝えた。
今後の目標
師匠の羽根直樹は加藤の棋風を、乱戦を好むタイプではなくどっちかというと堅実なタイプと分析する。
そして次のようなエールを送っている。
「ここからが勝負。勝ち上がっていくために、さらに努力して上にあがっていってほしい。世界を目指せるだけの力がある。期待している。」
加藤は今後の目標として女流タイトルを取ることを掲げる。
苦難を乗り越えてひたむきに努力する加藤が女流タイトルを奪取するときが必ずや来るに違いない。